東京高等裁判所 昭和48年(う)555号 判決
被告人 渋谷鏡造
〔抄 録〕
所論は前同第二事実につき、本件小切手は線引小切手であるから、原判示銀行と取引関係のない被告人がこれを直接銀行に対し支払のため呈示しても、銀行は絶対に支払うべきものではなく、被告人は正当な所持人であるように装ったのみで、線引小切手であることを秘して呈示したのではないから、欺罔行為の定型に該当せず、原判決が被告人の行為を欺罔行為と認定して詐欺罪の成立を認めたことは事実の誤認であると主張する。本件小切手が線引小切手であり、被告人の呈示を受けた原判示銀行係員が線引であることを見落して支払をしたことは記録上明白であって、銀行係員の不注意は否定すべくもなく、過失といわなければならないが、正当な所持人を装った被告人の呈示と、その支払との間に係員の過失が介在することにより因果関係が中断するものではなく、詐欺罪の構成要件たる欺罔行為の定型該当性を欠くものでもない。被告人自身も線引であることに気付かず、または気付いても線引小切手の性質を知らずに普通小切手として呈示したものであれば、欺罔の意思がそのまま実現したものであり、また線引小切手であることも、その性質も承知のうえで敢えて呈示したものであれば、事例は稀であるにせよ、係員が線引を見落すことを予期した欺罔意思に出て予期どおりの結果を得たものである。いずれにせよ、これを欺罔行為の定型に該当しないとして詐欺罪の成立を否定する所論は首肯できない。
(高橋 寺内 千葉)